自転車で徘徊しているとき、以前(といっても30年ぐらい前の話)祖父母が住んでいた天沼という町を通りかかった。小さい頃は毎週のように電車に乗り、荻窪駅から歩いて遊びに行った街だ。
もう駅からの道も覚えていないし、駅周辺も変わり果ててしまったので見当もつかない。当時は自動車で行くこともあり、そのときは、確か青梅街道から緩い坂をカーブしながら下っていったことを思い出す。そして凄く細い路地に入ってゆく。自動車で入れたかどうかの記憶はない・・・
そこまでの記憶を頼りに青梅街道から一本それた道を適当に走っていると、割にすんなり、それらしき緩い坂に突き当たる。多分この路地だろうと思うところを曲がると、祖父母の住んでいた木造の家が本当に残っていた。
家が残っていることは親戚の情報で知ってはいたものの、30年も経っていると周囲の様子は全く変わっている。古い木造のあばら家と対象的な周囲の真新しい建物群。
一軒だけポツンと、時間のエアポケットにでも入ったような感じで残っている祖父母の家。記憶と一致する所としない所のギャップが飲み込めない。新しい街並と古い家。どちらも現実感がないような気がした。
家の周囲だけでなく、青梅街道からの道も全て建物は入れ替わってしまい、初めて訪れたような印象しか持てなかった。街の記憶や建物はあんまり頼りにならない。
それでも、高低差や道幅の感じや曲がり具合など、地形は昔のままで、自分を祖父母の家まで導いてくれたのだ。それだけでも記憶の頼りになるのだな、と嬉しい驚き。